きっかけは、おそらくとても些細なことだった。
title/プロローグ
年の離れた兄に連れて行かれた、野外のライブ会場。盛り上がる客席はたくさんのサイリウムで埋め尽くされ、雄たけびを上げるファンの声援で、真冬だというのに熱いくらいだった。
その視線の先、集まった観客の注目をすべて集めるステージの上には、七人の少女。
『それじゃあみんな、盛り上がっていくよ――――!』
ステージ上で放たれたマイク越しのスタート宣言に、どっと沸いたような歓声が上がった。既に始まったイントロに乗せてサイリウムが振られ、野太い掛け声が会場全体に響き渡る。
初めてのことに戸惑う幼い自分を置いて会場は一体化していき――そうして、彼女たちのステージが始まった。
高らかに歌われるポップス、右へ左へ駆け回りながらのダンス、動くたびにふわりと舞うステージ衣装、時折挟み込まれるウインク、そして何より――客席全体にふりまかれる、その屈託ない笑顔。
周囲の空気にのまれたのもあるだろうが、気づけば彼女たちの作る世界に魅せられていた。曲なんて全然知らないというのに、周りと一緒になって掛け声を叫んだ。
あっという間の二時間、アンコールを終えて袖に消えていった背中を見送った時のことを、実琴は今でも覚えている。
最後まできちんと伸びた背筋に、相変わらずふりまかれる笑顔。それでも姿が見えなくなると、まるであの熱気が夢だったかのように引いていく。ざわつく会場に、一気に現実に引き戻される。
(――なんて、すごいんだろう)
最高潮の熱が引いてもなお残る胸の暖かさを、余韻と呼ぶのだと教えてくれたのも兄だった。
皆塚実琴、当時齢七歳。
初めて目にするアイドルグループのライブを終えて、その瞳がキラキラと輝く。
(とっても、かっこよかった……)
そこにあるのは、ただただ純粋な憧憬だった。